2013年2月2日土曜日

事件を風化させるな/「空飛ぶタイヤ」を読んで

池井戸潤の傑作のひとつ「空飛ぶタイヤ」の巻末に、「本作品はフィクションであり、実在の個人・団体・事件とは一切関係ありません」と書かれているが、否応なしに、11年前の2002年1月の横浜での母子死傷事故が記憶に蘇ってくる。
 大手自動車のトラックからタイヤが外れ、50メートルも転がり母子3人を直撃し母親が死亡した事故である。ネットの辞典によれば、あらまし「業務上過失致死傷で、2007年12月13日、横浜地方裁判所は「欠陥の把握は可能だった。放置すれば人に危害が及ぶことも容易に予測できた」と認定し、元市場品質部長と元同部グループ長の両被告に禁固1年6月、執行猶予3年の有罪判決。高裁を経て、2012年2月8日、最高裁判所は上告棄却、有罪判決確定」となっている。
 
 この作品は、銀行の貸しはがし、大企業の内幕、小学校でのいじめなども織り交ぜながら、リコール隠しと言う重大犯罪に迫っている。大企業にねじ伏せられて泣き寝入りしている中小企業の多さ、無念さのも驚かされる。そして、不正に屈服しない中小企業の社長の命をかけたたたかいは、著者の真骨頂である。
 
 作品の中でも、「裁判になれば長引いて中小企業はその間に倒産する」という大企業の嘲りが何度か出てくるが、判決が確定したのが去年の2012年の2月8日だと知って改めて驚かされる。そして、「事件を風化させないことが大事だ」という被害者の夫の言葉が重く響いてくる。


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