私の親父はランの愛好家だった。
ハワイへの社員旅行でランを買ってきたのが始まりだった。
一鉢からはじまり、僕の趣味だったサボテンの温室も追いやられでランの温室に変わり、ついには、家の後に温室が建ち、屋上にも3つの温室が建つまでになった。
いつの間にか鉢の数は数千鉢にまで広がった。
カトレアが好きなようだった。
愛好家仲間も広がり余生を楽しんでいた。
そんな親父が、ランの温室で転び、足を折って入院して感染症、肺炎にかかりあっけなく他界してから15年余が経った。
残されたランも兄がいくらか引き取り、温室は母と姉が管理するようになったが、ランは管理から株分けやらで大変なものだった。母も他界し、姉も仕事に追われたりして、結局、枯れてしまった。今では温室も台風の対策のために撤去してしまった。
先日、首里のある高齢者と話をしたときに、「自分の妻が、このランは、渡久地さんのお父さんからもらったものだよと話していたよ」と僕に教えてくれた。
親父からもらったランを大事に育てている人がいたのだ。
嬉しくなって昨日訪ねて行った。
もう時期は過ぎたらしいが、白い可憐な花をつけていた。
大事にしているらしくて、株分けもして友達数人に分けてあげたという。
嬉しいものだ。
自分の親父の形見のランの花が知らないところで咲いていたのだ。
親父のランも人の心を和ませていたのだ。
この方にお願いして、僕にも株分けしてもらえませんかと頼んできた。
親父のランの里帰りだ。
ランに没頭していた親父の後ろ姿が今でも目に浮かぶ。
元気なら95歳になっているはずだ。
15年以上も親父のランを大切にしてきたこの方に心から感謝の念でいっぱいである。
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